無糖カフェラテ

世界はきっと甘くあり、苦くもあるが、でもきっと甘い これは帰りの駅のホームで間違えて無糖カフェラテを買ったのがネタになりました。 甘くないカフェラテ  今日の仕事が終わり、私は会社を出る。家以外行く場所などないので、寄り道などせずに駅に直行する。改札を通り、ホームで一息つく。  ふと、疲れが襲ってきた。  甘い物でもとれば少しは疲れとれるかな?最近、自分にご褒美的な物も買ってなかったしな。そんなことを思いながら、私はカフェラテを買った。  話は少し変わるがコーヒー缶は振ってはいけない。振ったら中身が噴き出すからだ。  きっと私は疲れていたのだろう。注意書きがあったというのに、おもいっきり振ってしまった。そりゃ、噴き出すだろ。服は汚れなかったが、手が汚れてしまった。ハンカチをとりだし手を拭く。  やっとの思いで飲めたカフェラテは無糖だった。苦!コーヒー系は甘くないと飲めないのに。  今は疲れてるから、甘~い、甘~いカフェラテが飲みたかったのに。ふと、涙が出てきた。  なんでだろう?  あぁ、なんかいろいろうまくいかないからか。  今日だって、準備も万全にした仕事など全ての仕事がやり直し。残業だってした。なのに、仕事は進まない。その上、誰も手伝ってくれない。それで疲れてるから甘いカフェラテが飲みたかったのに無糖だった。  きっと私は甘い甘い世界にいすぎたのだろう。それなのに、もっと甘い甘い物を求めていた。だから、きっと神様が苦い物を与えてくれて現実を見させてくれたのかな。  私はまだ、ホームで涙を流している。涙は止まらない。 「どうした?」  後ろを振り返るとそこには先輩が立っていた。泣いてる姿を見られた。涙を拭くが一向に収まらない。 「とりあえず、これ。」  そう言ってティッシュを渡してくれた。その好意が甘くてほっとして、涙は止まらない。その様子を見て先輩は立ってた私を座らしてくれた。そんな私のことをひたすら泣き止むまで待ってくれた。泣き止んだ私はやっとのことで出した言葉はすいませんだった。 「こういう時はありがとうだよ。」  その言葉を聞いてまた、涙がこぼれ落ちる。先輩の声は続く。 「多分、何をやってもうまくいかないように感じてるんだろ。そんな時もあるさ、で片付くけどそれで片付けちゃいけないと思う。君はうまくいかない時でもしっかり仕事をこなそうとしている。それって誰も見てないと思う?」  私は沈黙をする。 「ちゃんと見てる人もいる。僕だってそうだ。君が頑張って仕事をしているのを見ていた。だから、今声をかけたんだ。」  私の涙は止まることを知らないように溢れ出す。 「頑張ってるのは誰かしっかり見てるから。」  その言葉を聞いて私は 「ありがとうございます。」 と言った。涙はもう止まっていた。そして、その言葉を聞いた先輩は、ティッシュ、明日新しいの頂戴ね、なんて冗談を言って別れた。  私の心は甘いだけではなくなった。苦いものも平気になっていた。たまには苦いものも感じて、甘さの大事を実感しよう。

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紫陽花の距離

あなたと物の距離は近いですか? とあるサラリーマンが気づいた世界の理。一体それはどういう物なのでしょう? 俺と幼稚園児と紫陽花  俺はいつものように起きて、支度をし、家を出て、会社に向かう。毎日、同じ繰り返し。何も変わらない日常。もう、この年にもなると刺激が欲しい、なんてこともなくなる。  そして、今日も玄関を開ける。  玄関を出てこれまた、いつものように同じ道を通るはずだった。のに、ふと会社までいつもと違う道で行きたくなった。そして、足はいつもの道を外れていく。いつもなら、思うまでで実際には通らないだろうに。  そういや、こっちの道通るのいつ振りだろう?前にここを通った時とは景色が似てるようで、似てない。  いつの間にか公園ができていた。紫陽花がきれいに咲いている公園だ。そこには帽子を被った幼稚園児が紫陽花を見ている。  その光景は微笑ましいものであった。しかし紫陽花だと分かっているものを何故みるのか、不思議に思いながら通りすぎて行った。通りすぎた後はもう会社についていた。  それからは、いつも通りの何の変哲もない日常が過ぎていった。しかしもう一度だけ、その公園を訪れた時があった。梅雨が明けた頃だっただろうか。  その日の朝もいつもと違う道を通りたくなった。無性に紫陽花が見たくなったのだ。  足取りは軽く1日が楽しみだ、そんな気持ちだった。しかし、着いてみたら紫陽花はもう枯れていた。だが、紫陽花の横にはあの幼稚園児がいる。  紫陽花が枯れていた腹いせをその幼稚園児に八つ当たりしたかったのだろう。俺はその子に質問をした。 「何で枯れてる紫陽花を見てるんだい?」 「このお花、紫陽花って言うんだ!僕、毎日幼稚園に行く時見てたんだ。」  純粋に花の名前を知れて喜んでいるその子を見て俺は自分の心が暗く、黒く染まっていくのを感じた。 「毎日見て、飽きないのかい?」 「えっ!何で飽きるの?毎日違う姿をして、見てて楽しいよ。」  俺から見れば紫陽花だと分かっていて同じものを何故毎日見るのか、時間の無駄に思えてしまう。そんな考えを巡らせているとその子は俺の考えを読んだように言った。 「おじさんも子供のころにずっと何かを見ていたことはないの?」 「あるけどどうしてだい?」 「僕は今までこのお花の名前を知らなかったよ。でもね、このお花のことを見てられたんだ。だけどね、今僕はこのお花の名前を知ったんだ。」  俺の汚い心が声を発しようとしていたが、声が出なかった。 「僕はこれからこのお花を紫陽花だと知って、これからは見る。でも、それって本当に良かったのかな?このお花のことを何も知らないで見ることはもうできなくなっちゃたんだ。」  俺は何か大きな過ちをしてしまった気分になってきた。 「前は僕とこのお花との距離は近かった、だけど今はこのお花との距離は真ん中に紫陽花って言葉がいるんだ。その距離はもう埋まらないんだ。」  俺はこの子の言ってることを聞いて大きな過ちをしたことに気がついた。 「ごめ…..」  俺の言葉を遮るようにその子は言う。 「いつか僕はこのお花の名前を知ることになる、それが早いか、遅いかの違いだけだよ。」  その言葉達は俺を気づかせくれた。知識があるだけがいいとは限らないと。純粋にもう物事を見れないんだと。俺たち大人はいろんな物との距離が遠くなっていったんだと。知ったことによって距離が縮まったと思い込んでいるけど、実際は距離が遠くなったことを。そして、あの時代には絶対に戻れないことを。  呆然としてる俺に対してその子はもう幼稚園に行かなきゃ、と言って立ち去っていった。その子は公園を出る前にこっちを振り向いて、 「お花の名前、教えてくれてありがとう!」  すごくきれいな笑顔だった。  俺はしばらく動けなかった。どこかの小学校の鐘が鳴って、仕事の始業時間に遅れていることに気がついて動き出した。  それからはまた、いつもと同じ日常が待っていた。このことがあったからといって世界は変わらないし、日常も変わらない。  ただ、変わったことと言えば俺は物との距離が遠くなったことに気づき、過去を懐かしむようになった、ということぐらいだろうか。

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